演者と観客が共に辿った、49通りのドラマ――Magic Node Festival 2016に寄せて

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2012年から開催され続け、今年で4年目を迎えた「Magic Node Festival(通称:マノフェス)」。音楽と他アートを結びつける下北沢のイベントとしてかなり板についてきたこの企画は、今回はさらに会場数を増やし、下北沢ReG・下北沢MOSAiC・下北沢CAVEBE・下北沢WAVERmona recordsの計5会場で開催。それに伴い総勢44組のミュージシャンと5組の写真・絵・アクセサリーのアーティストという過去最大級の出演者・出展者を誇り、大盛況を見せた。
だが、ただ数が多かったから盛り上がったわけではない。結論を先に言ってしまえば、今回のマノフェスは非常に「ドラマチック」だった。49組すべての出演者・出展者のドラマが、各所で見事に咲き誇っていたのだ。この記事では、そんな大きな感動を生み出した「Magic Node Festival 2016」の一部をレポートする。

 

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ReGのトップバッターは2人組ユニットのサスケ。開演時刻になり、客席とステージを仕切っていた巨大モニターが上がった瞬間、サポートメンバーを含めた4人が向かい合い、”虹を探すひと”がスタート。サスケの2人の力強いアコギのカッティングとサポートギターの単音弾きによる明るいメロディが組み合わさり、イントロから雨上がりのような清々しさを抱かせる。まさにマノフェスの始まりにふさわしく、このイベントがいいものになるという予感を持たせる曲だ。北清水雄太のパワフルでしかしどこか切なさを帯びたリードボーカルに、奥山裕次の低音コーラスが温もりをもたらすという掛け合いもたまらなく心地いい。
この日はできたてほやほやの新曲だという”エールソング”も披露。間奏で2人が向かいあい、笑顔でジャカジャカと勢いよくアコギをかき鳴らしているのが印象的だ。一度は解散の道を選んだ2人だが、またこうして幸せそうに演奏している姿にはグッとくる。ラストは代表曲”青いベンチ”を観客と合唱し、爽やかな余韻を残していった。

 

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家のリビングのような空間でゆったりとライブを観ることができるmona records。ここで最初に登場するのは、「浮遊系ピアノロック」を持ち味とする、ミズハシアヤカのソロプロジェクト・Novaureliaだ。ライブを観ていてふと思うことなのだが、ミズハシの歌声はかなりはっきりとしていて、まるで輪郭があるかのようである。そんな声で「不格好だとしても何かを始めよう」というメッセージを訴える”ing”や、彼女曰く「とっておきの失恋ソング」である”君は別の誰かを好きになる”を歌われると、不運をも飲みこんで自分の力にしてしまおうとする女子ならではの強さを否応なしに感じさせられる。疾走感溢れる”春なんて嫌いだ”ではドラムやベースのグルーヴがどんどん増していったのを感じたが、おそらくミズハシのタフな歌声がバンド隊をリードしていったのだろう。彼女の声の凄みを感じたライブだった。

 

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日常の景色をありのままに切り取っただけなのに、なぜか目を引かれてしまう不思議な魅力を持った恵守佑太(The Doggy Paddle)の写真が展示されている下北沢WAVER。ここではこの夜だけのバンド、MANOFIVEがステージに上がっていた。メンバーはHIGH BONE MUSCLEの鈴木啓、phonegazerの加藤彩可、giovannaの柊人、nameshopの渡部かをり、元NOGIKUのやまむーの5人。彼らはそれぞれが所属するバンドから1曲ずつ持ち寄り、この日だけのアレンジで演奏をする。
言いたいことはたくさんあるが、とにかく5人それぞれの人柄がうかがえるプレーが眩しかった。情動的な歌い方で他バンドの曲にもエモさを吹き込む鈴木のボーカル、男声に負けない安定感と強かさを放つ加藤の歌、まばゆい笑顔で凄まじい速弾きを見せる柊人のギター、そんな彼らに優しい低音と母親のような眼差しを向ける渡部のベース、スティックを高い位置から振りおろし一打一打にインパクトを与えるやまむーのドラム。それぞれのバンドのいいとこ取りのような一夜限りのセッションに、観客も腕を挙げて喜びを露わにしていた。

 

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下北沢MOSAiCの1階のフロアでは、ライブと並行して、アートブランドRi-bornによるジュエリーや絵の販売、ナナシママリアによる写真販売、えはらあいによる写真展示・販売が行われている。ギターのネック部分が輪状になってできた指輪、ビビットなカラーで夜景や夕景を描いた絵、フィルムカメラで撮られた幻想的な写真、凛とした少女の様々な表情を写した写真など、ここでは実に多彩なセンスに触れることができる。そのためこのスペースは作者と客とのコミュニケーションの場になっており、音楽と他文化のカルチャー交流が行われていた。こんな光景が見られるのも、マノフェスならではのことだろう。

 

ごっこ

そんなMOSAiCの地下では、4人組バンド・ごっこがライブを繰り広げていた。ごっこといえば、昨年末にドラムの荒井一平の脱退が突如発表され、タネダミツアキが後任ドラマーになるという出来事があった。長年連れ添っていた荒井が脱退することは、他のメンバーにとっては言うまでもなく大きな喪失となっただろう。
しかしこの時の彼らはもうだいぶ吹っ切れていたようで、ライブの後半ではボーカルの羽田野元彦が「前回のマノフェスに出た時とメンバーは変わっちゃったけど、バンドはもうちょっと続けると思います」という発言をしていた。そんなMCの後に演奏された”フラット”は、まるでごっこが深海を抜けて光をつかむまでの物語を表現しているかのようだった。水色の照明に照らされ人生を生きる上での悩みをしっとりと奏でる彼らが、<早く上空へ>という羽田野の叫びをきっかけに白い光に照らされ、一気に躍動感のある演奏へとなだれ込む。この流れはまさにバンド自身の状況を表しているなと感じ、胸が熱くなった。

 

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ごっこが地球で生きる悩みを歌うバンドだとすれば、彼らは宇宙で生きる愉快さを歌うユニットなのではないだろうか。次にMOSAiCに登場したのは、エレクトロ兄妹ユニットの空中分解 feat.アンテナガール。作詞作曲とボーカルを務める兄・POCO(空中分解)と、その妹であり同じくボーカル担当のアンテナガールによるこの2人組は、白を基調とした煌びやかな衣装に身を包み、ラップトップから流れるディスコサウンドでMOSAiCをダンススペースへと塗り替えていく。「宇宙船に乗った時みたいなわくわくを届けます!」と披露された”ミラーボール”では、ダンスパーティーで流れていそうなエレクトロサウンドに兄妹の突き抜けるようなボーカルや息ピッタリなダンスが炸裂し、ギターロックの聖地と言われる下北沢の一角にド派手なクラブを作り上げていった。

 

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「みなさんに一つ、物語を持ってきました」。フロントマン・柳澤澄人のその言葉から静かに始まった、6人組バンド・nameshopのライブ。彼は一冊の本を手に持ち、その物語をゆっくりと読み進める。そして読み終えた瞬間、突如6人が寸分の狂いもなく複雑なリズムのクラップを一斉にし始め、新曲”WEEKDAYS”へ。キーボードがリズミカルに奏でる小鳥のさえずりのような笛の音がリスナーの五感を歌の世界へと導き、まるで別世界に来てしまったかのような気持ちにさせる。そこから繰り広げられる、伸びやかな声で切々と思いを紡ぐボーカル、森の中をズンズン歩むかのようなリズム、6人の重厚かつ風のように爽やかなコーラスもまた、リスナーの心を震わす。この音楽は、もはや魔法だ。
続く”アメノチ”や”AIRPLANE 776”では、柳澤が手話のようなジェスチャーをしながら歌っているのが印象的だ。その姿はまるで、聴き手に手渡しで言葉を届けようとしているかのよう。最近絵描きの小川咲紀子が脱退したnameshopだが、彼らのライブにおける芸術性は全く衰えていない。むしろ彼らの音楽的センスがさらに研ぎ澄まされたパフォーマンスは、ライブを観終えた観客が「すごい……」と言葉を漏らすほど大きな感動を与えていた。素敵なライブだった。

 

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3年ぶりにマノフェスに出演する3人組バンド・phonegazer。「マノフェスに出るのは久しぶりで。誘ってもらってたのにいろいろなことがあって出られなくて……」と加藤はライブ中に申し訳なさそうに語る。だが、そんなブランクを感じさせないほどのステージを彼女たちは見せてくれた。バンドの初期から歌い続けられているアップテンポナンバー”GIRL”が披露されると、WAVERにつめかけた観客は一斉に腕を挙げ、待ってましたという気持ちを露わにする。それを見たメンバーは嬉々とした表情で、疾走感溢れるサウンドやタフでありながらとびっきりガーリーな歌声、新体制になっても変わらない凄まじいグルーヴ感で応える。「明日もハッピーだったらいいなという気持ちを込めて、この曲をやります!」加藤のこの言葉を皮切りに演奏された、ラストナンバーの”オアシス”。エネルギッシュなバンドによる最もエネルギッシュな曲と言ってもいいこの曲は、演者だけではなく観客の中に潜むエネルギーも沸騰させる。WAVERは双方の活力で溢れかえり、演者は激情的なプレーで、観客は合唱でそれぞれの熱を解放していった。バンドと観客の熱い化学反応が、至るところで花開いたライブだった。

 

ジャイナ

ReGのステージに、ホーンやパーカッションなどの楽器を携えた9人の男たちが集う。J-POPエンターテインメントバンド・二人目のジャイナの登場だ。その出で立ちからジャズバンドに見られがちな彼らだが、中身はあくまでも(再度言うが)J-POPエンターテインメントバンド」である。その証拠に9人は、演奏しながら皆で同じダンスをしてミュージカルさながらの演出をしてみせたり、 客への投げかけや振り付けのレクチャーで聴き手との距離を詰めていく。おそらく彼らは、 一方的に音楽を聴かせるということではなく、「俺たちの音楽で一緒に楽しもうぜ!」という心意気を持ったバンドなのだ。それが「J-POPエンターテインメントバンド」を名乗る所以だろう。
そんな彼らの娯楽性は”ボンダンス”で爆発する。ホーンがアクセントになっているサンバのようなダンサブルなサウンドは、人が満杯に詰め込まれたReGに熱帯の風を呼び込み、観客を煽っていく。煽られた客は絶えず飛び跳ね、会場の温度をさらに上昇させる。最終的に既存のファンとこの日初めて彼らのライブを観るというような人たちが入り乱れ、汗だくで踊っていたのが印象的だった。この後に披露されたミディアム・バラード”メクルメク”も、暑くなった会場を通り抜ける夜風のようで、最高に心地よかった。

 

それ媚び

客席の隅でライブペインターであるKanaseが無心に筆を走らせ、白と黒の2色だけで優美かつどこか恐怖心を煽るゴシックな作品を作り上げている下北沢CAVEBE。ぎゅうぎゅう詰めのこの箱で多くの人が待っているのは、大阪発の5人組ハードロックバンド・それでも尚、未来に媚びるだ。ライブはもちろんのことMCも激アツと定評のあるバンドだが、今宵も実にエモーショナルな音楽と言葉を響かせてくれた。
この日のそれ媚びのライブを語る上で欠かせないのは、このマノフェスで解散することを発表したバンド・こゆびについてのMC。ボーカルのがーこはこゆびのメンバーと友人関係であることを明かし、「ここにいるみなさん、お願いですから今日帰る前に絶対こゆびのライブを観て行ってください。バンドマンは忘れられることが一番怖いんです」と切実な思いを語る。そしてこゆびに捧げる曲として”グッドバイ”を披露。スピーカーのサランネットが大きく揺れるほどの轟音で、大切な仲間との別れの切なさが歌われる。最後は「解散するバンドのことはもう知らん。これからは、俺たちの今をぶつける!」と宣言し、”夕方の街”など悲しみをかっ飛ばすかのようなハードロックナンバーをぶちかました。

 

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フォークソングやグループサウンズ特有の憂いやときめきを、絶妙な塩梅でギターロック風に再現するビーチ・バージョン。彼らの音楽は、ゆったりとした家カフェ的な雰囲気のmona recordsにぴったりだ。
「こんなにたくさんの人が来てくれるなんて思わなかったので嬉しいです。ありがとうございます!」渡辺がなめらかな声で喜びを語ると、春の陽気のようなギターの淡い音色が零れる”ハイティーンガール”へ。ラストサビの前では<ハイティーンガール>というフレーズの客との合唱もあり、爽やかなメロディが会場に響き渡る。続く”sekirara21”はフォークらしい気だるさが心地よい1曲で、木造のmona recordsと溶け合い、会場がそのまま1970年代にタイムスリップしてしまったかのような感覚を覚えた。
「このままマノフェスが続いていくかもわからないし、俺たちもバンドやってるかわからないけど、お互い頑張って繰り返していけたら」というMCから始まった新曲の”ルーティーン”。ノスタルジックなサウンドと前向きな思いで未来へとたすきをつなげる彼らの姿はなんだか頼もしく、そして輝かしく見えた。実にいいステージだった。

 

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下北沢MOSAiCにマノフェス最後の音が鳴る。それは、このバンドにとっても最後の音となった。
Magic Node Festival 2016の大トリを飾るのは、このライブで解散することを発表したこゆび。MOSAiCは入場規制がかけられるほど多くの観客が押し寄せ、5年半のバンドの歴史が閉じられる瞬間を見守ろうとしていた。
ステージと客席を仕切っていた白い幕が解かれると、こゆびのメンバーが静かに姿を現す。その静寂を保ったまま、バンドはロックバラード”大丈夫”へ。ゆうきのか細い声で何度も繰り返される<大丈夫>という言葉は、聴き手の中にある悲しみを拭うように、そして決意を固めた自分たちに言い聞かせるように沁み渡っていく。それがたまらなくもの悲しい。
「本当はもっと早く解散するつもりだったんですけど、マノフェスが開催されるって聴いて。それには必ず出たいと思って、主催者のマノくんに相談して、ここを解散の場に選びました」。ギターの遠藤によって明らかにされる、マノフェスを解散の場所に選んだ理由。そこにはバンドとこのイベントが積み重ねた、人知れずのドラマがあったようだ。
ライブ後半は”トラウマ””タイムセール”など、爆音と巻き舌まじりのボーカルというこゆび節が炸裂。本編最後は”アーティスト”を演奏し、「アーティスト気取り」の人物たちへの苛立ちを吐き捨ててステージを降りた。

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満杯のMOSAiCに鳴り響く、アンコールを求める手拍子の音。それに応えたこゆびが最初に演奏したのは”感情遊戯”。ギター、ベース、ドラムのすべての楽器が轟音を立てるハードコア的な展開に乗せ、マイクを手にしゃがみ込んだゆうきがこう叫ぶ。「解散するなんてさみしくてたまらない」「こゆびを知ってくれた人ありがとう」「こゆびのボーカルで幸せだった」。憎い人間への殺意が抉り出されているはずのこの曲から零れたのは、彼女のファンやバンドへの素直な思いだった。このシーンにはこの会場にいた全員の目が釘付けになり、そして多くの人が涙を流した。
「ありがとうございました、こゆびでした」。満面の笑みでゆうきが一言だけ言って演奏された、本当のラストナンバー、”暴言”。鼓膜をドカドカと蹴りつけるようなドラムのビートに合わせて観客は踊り狂い、解散だということを忘れさせるくらいの盛り上がりを見せる。そしてたった2分しかないその曲を全力で演奏し切ったメンバーは、何も言わず、名残惜しさも見せず、会釈をしてさらっとステージを後にした。最高の余韻と熱狂、終わってしまったさみしさだけをそこに残して。誰の目から見ても間違いなく有終の美であると言えるほどの、本当に素晴らしいライブだった。

マノフェスで展開された49通りのドラマは、このライブをもって幕を閉じた。いや、ここからまた、始まった。

 
[Photo:Seki Kiichi、のうだちなみ、横山麻衣 Text:笠原瑛里]