タチバナアキホ『microente.』に馳せる想い

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niente.のボーカルとして活躍しているタチバナアキホが、自身の誕生日企画兼弾き語り音源のレコ発を2014年4月19日(土)に渋谷club乙-kinoto-にて行う。聡明かつ丁寧な人柄の彼女が紡ぎ出す歌は、壮大なスケールを奏でるniente.と彼女1人が織りなす今作『microente.』で共通する点もあれば、違った印象を見せてもくれる。今回は弾き語り音源となる『microente.』に込めた彼女の心中を語ってもらった。

取材:加藤彩可


「一人称を使わない表現」で、リスナーの解釈に幅を

—今回弾き語りのCDを出すにあたって、5曲の内の3曲が書き下ろしと言うことですが。

タチバナアキホ:そもそも曲を書くことになったきっかけが、渋谷club乙のスタッフさんが私の誕生日を知ってて、私が全然知らないうちにイベントがほぼ決まっていて。仮抑え状態で「やるよね?」っていう風に話を振ってもらえて、最初は誕生日イベントだったんだけど、誕生日だけで人来てもらうのも申し訳ないなと思って、今年も弾き語りやろうかなと思ってたから「じゃあリリースにします」と言って。元々はバンドの曲をリテイクすればいいやぐらいに思っていたら、ダメ出しをされて(笑)。それが年明けくらい。「じゃあ曲を書いてみよう」と、今まで書く気は無かったんだけども、それがきっかけで作り始めましたね。

—では、今まで弾き語り用の曲は一切書いたことがなかった?

タチバナ:そうですね。弾き語り自体も去年お話頂いたからやってみようかなっていうのが最初で、去年は結局4~5回くらい。ツアーで継続的にはできなくて。でも弾き語りをやった時は自分の中で表現が良かったり、表現を理解できたからまたやってみようと。意識したところは、niente.でも崩さずにやっている「一人称を使わないで表現をする」ってこと。歌詞に具体的なストーリーがあるかと言えばバンドの曲も弾き語りの曲もそうではなくて、ある程度聴く人に解釈の幅を持っていてほしい。ストーリーを提示して、そこに共感する音楽もあるけど、何かを訴えるよりは好きなように聴いてほしい。今回もそこに関しては崩さずに、弾き語りの選曲もniente.の曲よりはある程度ストーリー感というか景色感は少し具体的にはしたつもりだけど、それが何なのかっていうのは選んでもらえるようにという意識は持ってますね。

組織の中での個人の在り方

—1曲目の「Shoal(s)」という単語は「ショール」という意味の他に、「群れ」という意味もあって、「魚」や「流れる」、「沈む」、それから「陸の孤島」などの意味もありますが、海と陸というものの中で魚というものを意識したもの ?

タチバナ:そうですね。「群れ」っていうのは意識してて、人の群れ…具体的に表現するのは難しいけど。

—イメージとしては魚がいるような場所というよりは人がいるような場所?

タチバナ:両方かな。曲の構想的には水とか魚とかそういう動きの統一性みたいなものがイメージなんだけど。それを考え始めたきっかけとして、私は結構大都会に勤めてるんですけど、みんな同じような動きをしているなぁと。本当は違うんだろうけど組織の中では、会社とか、仕事とか、仕事以外でもそうだけど、結局一つのことをやっていてそこには個人が出せるときも出せないときもあって。良くないときほど結局見過ごすことが多いなと思って。特に組織の中では言えない立場で、みんな何かに対して疑問を持ってても言わない、言えないっていうので流れて行くことが多いなって。それを是非を問うことまではしないけど、自分もそうだよなっていうのが何となく根底にはありますね。

—面白いですね。

タチバナ:たとえば都会のことを歌う時に「都会」という言葉を使いたくない性格で、そのまま言うのが苦手で。逆にしゃべるときはそのまま、なんでもばんばん言っちゃう方だから(笑)。でも、それを言ってしまうとやっぱり幅が狭くなっちゃうから、好きなようにとれるように何か違うことのイメージにくっつけてやることは多いですね。

—(s)を付けることで意味が変わりますよね?

タチバナ:「隠れた危険、落とし穴」という意味があって、私よく辞書漁ってるんですけど、なるほどねと思って。

—いやでもこの言葉をチョイスしたのは凄く面白いなと思って。あと飛んじゃいますけど、これ(泡沫)は何と読めばいいですか?

タチバナ:それは”うたかた”ですね。”ほうまつ”って読む人が多いんですけど。

—”ほうまつ”と読んだり”うたかた”と読んだり、あと”あぶく”と読んだりもする。1曲目の「Shoal(s)」は読み方は”ショールズ”ですけどいろんな意味があるし、最後の泡沫は逆にいろんな読み方ができたりっていう、このタイトル名にも「幅を持たせる」というのが現れているのではないかと。

タチバナ:確かに。無意識だったけれども、特にタイトルつける時はそうかも知れないですね。特にタイトルは、すんなり読めないやつ付けること結構あるかも。

—3(refl)、4(1R)曲目とかも結構タイトル的に言ったらそうだなと思って。

タチバナ:確かに!性格が悪いんですよね(笑)

—3曲目なんかは、この単語自体って無いですよね?

タチバナ:勝手に作った言葉なので(笑)。それを付けたきっかけは「反射」のリフレクションだった。「再帰現象」っていう意味もあって。「再帰」って言う言葉と「反射」っていう言葉になるほどと思ったけど、そのまま付けると直接的すぎてピンとこなくて。略するのあんまり好きじゃないんだけど、そういう略を使うシーンも世の中にはあるということを知り、そっちの方がピンときたというか。プログラミング用語なんですよね。その省略形の意味をいっぱい見て、いろんな意味を持ってるなぁと…あ、言われてみればやっぱりそうですね(笑)。

曲の中に自分がいる、という初めての試み

—5曲目の「泡沫」はバンドでもやっている曲で、同じように2曲目の「chromatography」もバンドでやっている曲ですが、これもイベントの開催が決まってから書いたのでしょうか。

タチバナ:それだけちょっと違いますね。2曲目は去年弾き語りを2~3回割と近い時期に続けてやってたんですけど、弾き語り用の曲もあった方がいいよといっぱい言われて、じゃあ作ってみようかなと思って作ったのがそれですね。

—この曲だけ弾き語りのために先に書いてあったということですか?

タチバナ:他の曲も共通なんだけれども、niente.の曲は私の私生活とか日々の中で私に起こったことからはなるべく切り離して作っていて。自分を投影すると自分に左右されやすいし、あと人に聴いてもらう幅をちょっと狭めるかなと思って。きっかけは自分にあれど、込めるものはなるべく自分じゃないようにしてて。でもその曲に関してはある程度その中に自分、私もいるっていう感じはありますね。それは他の弾き語り、残りの3曲にも言えることかも。

—この3曲もどちらかというとniente.よりはタチバナアキホの色を出している?

タチバナ:そうですね。全部自分のことでは無いけれども。自分のことを人に聴いてくれって言う程たいした人生じゃないから(笑)。そういう風には思ってないけど、一人の視点と言う意味では日常に近いものにはしました。