飯濱壮士(ame full orchestra)僕が希望を描きたくなった理由

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ame full orchestraのリーダーであり、全楽曲の作詞作曲を担当する飯濱壮士。彼にはプロデューサーとしての一面もあり、これまで、Galileo Galilei、藍井エイル、phatmans after schoolをはじめとした、多くのアーティストを手掛けてきた。だからこそ分かる、アーティストの正義とスタッフの正義。自身が初めて組み札幌のシーンを賑わせたバンドmondaysickと、その解散から間もなくして結成されたame full orchestra。縦と横のつながりから、彼が持つ音楽論に迫った。

(先月末公開したメンバー全員のインタビューはこちらから。)

撮影:石原亜依/取材・文:船底春希


これから東京へ行く僕たちの歌

――まずは、久しぶりのsoundcloud更新となった新曲『風のホイール』について聞かせてください。

札幌を離れる少し前に書いた曲で、自分自身の心境にかなり近い物語になっています。最初の詞にある、荷物がなくなった部屋を見てこんなに広かったのかって思ったのもそうだし、2番のAメロにある北斗星のくだりも実話。20年ぐらい前、当時通っていた学校の寮を飛び出して、夜行列車で東京に行ったことがあるんです。それが最近廃線になったと知った。音楽を始めたころに飛び乗った列車の線路がなくなっても、僕は音楽の道を歩き続けてるつもりだから「レールのない道を歩いて」っていう歌詞も、自分自身の実感なんです。

――4月の札幌の空気を閉じ込めたようなサウンドがとても印象的でした。真冬の寒さは和らいで春の予感がありつつ、やっぱりまだひんやりとしているような。

意識しているわけではないけど、4月の頭に札幌のことを書いた詞だからなのかな。僕の場合、音は詞に引っ張られて出てくるものだから。今回はあまりエレキギターが入ってないんですけど、自然とそうなりました。AメロやBメロにエレキギターを入れたら不自然な気がして、これは絶対ピアノとアコギだなと思ったんです。

――「便りがいつか途絶えても/その時は君の夢を見てるんだ」っていう詞が良い意味ですごくひっかかりました。遠く離れて過ごすことになった人たち、中でも、かつてのバンドメンバーへの意識があるんじゃないかと感じたんです。楽器を置いて、一緒に夢を追いかけていたころとは違う生活を送っている人たちへの思いが。

その通りですね。前のバンドが解散するとき、当時のメンバーに言われました。「俺の夢は飯濱さんとゆっきー(ベースの中村之則)に託します」って。だから僕はずっと、約束と夢を引きずって走ってるんです。すべての人が夢を叶えられるようにはできてなくて、夢破れた人はきっと、同じ夢を追い続けている人に自分自身を投影するから。バンドでの夢が叶わなかった人が、かつての仲間がやっているバンドや仲の良かったバンドが大きくなっていくのを見たとき、それが本当にかっこいいことをやってるバンド、人間的にも愛されているバンドだったら、嬉しいと思います。

――夢という言葉が特徴的に使われていますよね。前回の取材後にみなさんの思いを知ったうえで聴いたからかもしれませんが、今までのアメフルの曲の中で一番、希望や未来を感じます。

うん。もしかしたら別れの歌に聞こえる人もいるかもしれないけど、そういうわけでもないんですよね。希望を感じてくれたのは、やっぱり自分の心境に沿っているからじゃないかな。自分たちの意思で札幌を離れて東京に出てきたわけだから。その土地を愛することとその土地にとどまり続けることは必ずしもイコールではないから、今は東京に出て大きくなって、札幌に帰って恩返しがしたい。そういう意思が曲に反映されて、希望を感じさせてるんだと思います。

――飯濱さんの作る歌の良さを支えているのは、百人並みの世界一の君(2013年12月に2日間限定でリリースしたCDの表題曲)的思想だと思ってるんです。その人にとっての君は紛れもなく世界一だからこそ、壮大に響く。でも、他の人から見たらありふれているものだけどねっていう前置きがあるから、大げさに聴こえない。どの曲にも感じていたことなんですけど、今回は物語の題材が日常生活の中でありふれていることだったので、特に強く感じました。

特に歌詞に関してはコントロールして作っているわけではないから、はっきりとこうだとは言えないけど、言われてみればそうなのかもしれない。平々凡々な相手でも、二人の周りにはバリアがあって、その中では最高に幸せなんだから、周りから見てどうかなんてどうでもいいことなんですよね。

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――大げさに聞こえないっていうのと通じる部分なのかもしれませんが、物語として成り立っていながら、すぐそこにある生活のような気がしてしまうほどのリアリティがある歌詞ですよね。

それは体験と想像を混ぜながら作っているからだと思います。その比重は毎回違って、今回の風のホイールは限りなく体験の占めている部分が大きいし、逆に創造の要素が大きいものだと、グリーンリーフとかかな。あの曲はバラリーナのレコーディングの合間にストーリーのアイディアを思いついて、詞も曲も車の中で一気に書きました。ライブではしばらくやってないけど、すごく気に入ってる曲です。

――たしかにもう長いことやってないですね。

グリーンリーフに限らず、最初の頃に発表した曲は、最近ほとんどやってないですね。どうしても、新しい曲の方をやりたくなってしまうんですよ。あとは、ライブという形で自分たちの納得のいくところまで表現できてない曲はやらないっていうのもありますね。教室クラブとか。あれはドラムがめちゃくちゃ難しいんです。初めてライブを観るお客さんがせっかくsoundcloudの音源を聴いてきてくれても、そこにある曲はほとんどやらないから知らない曲ばっかりっていう、申し訳ない状況になってます(笑)。

絶望の先には、希望があるかもしれない

――先ほど少し話したように物語の中に希望が感じられるようになったというのは、mondaysickからame full orchestraへの一番の変化だと思います。良し悪しは別にして、mondaysickが白と黒の世界だったのに対し、ame full orchestraはすごく色彩が豊かになった。その変化にはどんなきっかけがあったのでしょうか?

実はマンデーの後期にはもう違うことをやりたくなってたんです。決して、新しいバンドをやるから違う個性を打ち出したいと思って作風を変えたわけではなくて。例えばアメフルのバラリーナの原形は、その頃すでにできてました。マンデーのメンバーもいい曲だって言ってくれて、合わせたこともあります。でも、なんか違うなって感じたんです。今言ってくれたようにモノトーンな印象が強く定着していて、そういうものが求められているっていう意識もあったから、そこから脱することができなかった。だから、新しくアメフルをやることになったとき、心のどこかで、解放されたっていう気持ちがありました。作風変わったねっていうことはいろんな人に言われたんですけど、そこに直接的に作用しているものは何かと言われれば、やっぱり心境の変化ですかね。

――その心境の変化というのは?

自分が辛くなってきちゃったからなのかもしれないな。ダークなものや、ダウナーであることが、以前の自分にとってはすごくかっこよく感じていたんです。だから、マンデーの頃は絶望的で悲しい物語ばっかり書いていた。でも、落ち込んだり絶望を味わったりする中で、僕自身が希望を欲するようになっていったんだと思います。前のバンドでメンバーが脱退したときなんかは、もう記憶がないぐらい辛かったから。何か辛いことがあったとき「わかるよ、辛いよね」って寄り添うのがマンデーの曲だったとしたら、アメフルでは「でもその先には希望があるかもしれないよ」ってところまで表現したいんです。

――なるほど。あと、もしかしたら、この曲を池守さんが歌うんだっていう意識によって変化した部分もあるのかもしれないと思ったんですけど、いかがですか?

抽象的な言い方になってしまうけど、ただのバンド然としたスタイルではなくて、もっと大きなことをやりたいんです。だから、この人が歌うからこう作るっていうことはなくて、5人でやったときにどうなるかをイメージしています。でも、池守くんの声は純粋に好きですね。他に聴いたことがないんですよ。あの子の歌声で曲が流れてきたら、すぐにアメフルの曲だって分かってもらえるんじゃないかってぐらい、個性が強い。歌いまわしに和が宿っていて、津軽三味線以北の声だと思ってます。

――それぞれに個性を持つボーカルと楽器隊がお互いを引き立てあって、物語の世界が見事に表現されていますよね。アレンジでこだわっているのはどんなことですか?

僕は毎回必ず弾き語りを録ってメンバーに送るようにしています。キーボードとかだと絶対に人間の声の間とか尺の間は出ないから、下手でも自分で歌って聴かせる。あとは、歌詞を熟読してもらうことですね。歌詞の背景を音で表現してほしいっていうことは、メンバーに一貫して言ってます。不思議なもので、最初に持ってきてくれたものがイメージと違ったとき、この主人公が歩いてこの音遣いになるのか、もう一回歌詞読んで想像してみ?って言っただけで、すっごく良くなったりするんです。そういうアレンジの仕方は、他のバンドと違ってる部分なんじゃないかなと思います。とにかく歌詞を読んで、イメージと擦り合わせていく。その過程で化学反応が生まれたりするのが、アレンジの楽しいところです。アメフルサウンドの重要な部分を担っているものの一つがギターの空間の使い方だと思うんですけど、けんちゃん(佐藤兼太郎)は僕の発想外のものを持ってきてくれることが多い。仕事で自分一人で全部アレンジした曲は、自覚があるほど自分っぽすぎるんです。自分のバンドよりも多くの楽器の音を重ねてるのに、バンドでみんなでやるほうが絶対にカラフルなものができる。他人の血が混ざる楽しさっていうのは、バンドにこだわっている理由にも直結してると思います。